広島県竹原市立忠海学園での「テスト作成システム」を使って評価を行う取り組みをご紹介いたします。
プリントでの形成的評価とテスト作成システムでの総括的評価(広島県竹原市立忠海学園)
「単元プリント」や「テスト作成システム」を活用し形成的評価・総括的評価を行う
義務教育学校 竹原市立忠海学園
校舎の背後には山々が連なり,前方には瀬戸内海が広がる,豊かな自然に囲まれた学校です。
平成27 年度に前身である忠海小学校・忠海中学校が施設一体型小・中一貫校となり,
令和3年度には義務教育学校として竹原市立忠海学園が開校しました。
9年間の義務教育のうち最初の4年間を「初等部」,次の3年間を「中等部」,
最後の2年間を「高等部」と定め,きめ細やかな指導を行っています。
取り組みの背景とねらい
2021 年度から,単元プリント*1)を用いた形成的評価と
「テスト作成システム」*2)を用いた総括的評価を始めました。
背景は大きく2 つあります。1 つは,我々教員の業務改善,働き方改革との関連です。
テストに関しては,作問・印刷という業務が学期に2 回(中間と期末)あったため,
その負担軽減を考えました。
もう1 つは,プリントでの形成的評価の改善です。
中間・期末の2回のテストのみでの評価では,どうしても内容が大くくりになってしまい,
子どもの学習状況について,深いところまで見取れないことがありました。
中間テストを廃止し,全教科で単元プリントによる単元テストを導入することにより,
子どもがどこでつまずいているかを細かく確認することができます。
*1)新学社の単元プリント
「学習の達成」
基本から応用まで取り組めるプリント教材です。
オモテ面の基本問題で単元の基礎的な重要事項をもれなくおさえ,
ウラ面で資料を使った記述問題などに取り組めます。
「Wプリント」
1大問1観点で構成。観点別の評価をはかる「評価プリント」と,
その予習・復習として取り組める「確認プリント」のダブル使いができます。
*2)新学社テスト作成システム
問題データベースから問題を選定し,WEB 上でテスト問題が作成でき,
生徒数分印刷したものが納品されるシステム。
デモ版はこちらから(実際にお試しいただけます!)
ID:demo
パスワード:singdemo
取り組みの詳細
単元プリントは,各教科の単元の終わりで実施しています。
定期テストのように日程をあらかじめ決めて行うのではなく,
単元の学習が終わった教科からそれぞれ実施しています。
単元プリントを実施することで,定期テストは,学期末のみになりました。
本校は3 学期制なので,年間3 回です。
今のやり方をする前は,単元テストや小テストの実施状況は,教科によってまちまちでした。
また,回数やタイミングも教科によって差がありました。
しかし今のやり方では,どの教科も単元テストの後に期末テストを行うという流れが統一できています。
同じ流れで学習が進んでいくので,生徒は以前に比べ,学習に取り組みやすくなりました。
また,評価の形式が教科に関係なく共通になったことによって,教師の間でも,
教科を超えて評価の相談などがしやすくなりました。
たとえば学級懇談の場面で,担任が自分の担当以外の他の教科の説明をするとき,
なぜその評価なのか,評価形式が統一されたことで理由が説明しやすくなりました。
担任も自信をもって説明できるので,保護者の納得感も高まっています。
さらに,単元ごとにテストを行うと,
生徒がどの部分でつまずいているかが明確にわかり,苦手部分のフォローがすぐにできます。
また,実力テストとして,「学力向上TSP(新学社)」*3)を7 年(中1)・8 年(中2)で実施しています。
計画表を使うことで,9 年(中3)からの受験対策を見据えた意欲づけがねらいです。
定期テストは出題範囲がある程度決まっていて,そこを勉強すればよいのですが,
明確な範囲が決まっていない実力テストは対策が立てづらいという生徒も多くいます。
そこで「学力向上TSP」を活用して,
「このような勉強をすればよいのではないか」と生徒にアドバイスをしています。
答案を見ると生徒個別の課題がわかりますから,宿題としてワークに取り組ませて,
TSP でできていなかった部分を復習させるようにしています。
個別に苦手な内容の復習ができる「アクションシート」も配付し,
家庭での復習に活用しています。
*3)学力向上TSP
学力検査だけでなく,学習計画立案・予習・復習がセットになったテスト教材。
生徒一人ひとりの学力検査の結果を受けて,特にできていなかった部分を
復習できる個別内容の復習プリント「アクションシート」を提供。
日常的な学習習慣の形成にも役立ちます。
評価をどのように行っているか
評価の内訳は,単元プリントと期末テストの比重が1:1になるようにしています。
つまり,単元プリントを5回行った場合,
その5回分を,期末テストの1 回分と同じ比率に換算するのです。
それに授業の様子をプラスアルファの要素として加えています。
最終的な比率は,単元プリント:期末テスト:授業中の様子が1:1:1になります。
このほか,教科によってはレポートの内容を加えたり,
国語や英語は,単元テストよりも細かい単語や漢字テストの結果も加えたりしています。
最近は,宿題や長期休み中の提出物の比重はあまり大きくないです。
家庭で取り組ませるものは,どうしても生徒によって習熟度合いにバラつきが出てしまいます。
それよりも,できるだけ学校の授業で全員にしっかり教えることを重視しています。
生徒・保護者への説明とその反応は
新型コロナウイルス感染症の影響もあり,
保護者を集めて説明を行う機会がなかなかもてませんでした。
それでも,年度初めに評価に関する説明会を行いました。
保護者への個別の対応は,授業参観などの機会があるごとに
声かけを行うなどしてコミュニケーションをとるように心がけています。
特に気になることがあれば連絡なども行っています。
生徒には年度初めに,中間テストをなくし,単元テストで評価していくことを伝えました。
初めは,これまでよりテストの回数が増えたので,戸惑いはあったと思います。
しかし,出題範囲が単元ごとに決まっているので,
流れがある程度わかってくると,取り組みやすくなったようです。
単元テストは,単元内だけを集中的に復習していくので,
理解をこまめに深めていけることがよい点です。
教師も,単元のどこでつまずいているか,明確にわかるようになりました。
中間・期末テストの2 本立てだと,大きなくくりの中で
広く浅い作問や出題をせざるを得なかったのですが,
単元ごとの出題範囲になると,より深い問題も扱えるようになりました。
そのため,生徒個人個人の理解度を,よりきめ細かく把握できるようになったと思います。
単元についての理解度は,実施する前よりは向上したという手応えをもっています。
生徒によってはグッと点数が上昇した子もいますし,
単元テストでのつまずきが期末テストで克服できている子もいます。
単元テストの結果を見て自分で復習をしっかり行い,
期末テストでよい結果を出したという例は当然あると思います。
今後の課題は
現在は生徒1 人1 台のタブレット端末が配付され,
授業の中でもICT 機器を使う場面も増えて,
コンピュータを活用していく時代になりました。
それによって,生徒たちの学習意欲は少し増したようにも思えます。
タブレット端末1 台あれば,教科書やノートを出して学習の準備をする手間がなく,
すぐに学習に取りかかることができます。それはICT の良い面ではないでしょうか。
一方で,
生徒たちには1 つの問題に粘り強く取り組む力が少し不足しているように感じています。
学習を振り返るには,教科書やノートが手元にあるほうが便利だし,
すぐに必要な情報を探すことができます。
コンピュータ端末だと,データとして保存はされていますが,
欲しい情報にたどり着くまでに時間がかかってしまいます。
また教師の側も,ICT 機器の操作スキルに差があると感じます。
これによって,生徒の学びに格差が出ないようにしていかなければなりません。
私は数学担当ですが,紙に書くことで自分の思考の過程やつまずきがわかると思います。
全てがICT 頼りだと,子どもの思考が伸びていかない可能性も出てくると危惧しています。
紙の教材とICT の活用,どちらにどれだけ比重を置けばもっとも最適な学びが実現するかを,
これから考えていかなければならないと思います。
お話しいただいた先生
重田友洋先生(教務主任・数学)