新学社の精神 Spirit

教育による国づくりの使命を担い、
その責任をしっかりと果たしつづける

代表取締役社長山本 伸夫

教育の世界でのたたかい

新学社は教育出版社として、幼児・小学生・中学生を対象にした教材の出版を主たる事業としていますが、昭和32年の創業以来、一貫して教育事業のみを志としてきました。戦後のめまぐるしい社会変化のなかで、子どもたちは変わらない、子どもたちの無限の可能性と新芽がのびゆくような清新な心はなに一つ変わらないと信じ、その変わらない大切なもののために、私どももまた、創業精神を継承し、変わらず保持しつづけてきました。

当社草創の前史は、終戦直後にまで遡ります。日本は連合国の統制下で復興への道筋を歩むこととなりましたが、占領政策の一環としてもたらされた教育施策は、徳川期の寺子屋や藩校の普及に根ざす明治以降の高度で充実した近代教育体系を分断させ、代わりに土壌のまったく違う米国の教育プランを移植しようというものでした。たとえばそれは、自動車をつくる原理を一切教えず、修理工を養成するという形の教育でした。

ここに教育現場は激しく混乱し、児童生徒のおそるべき学力低下が始まりました。この危機的状況を眼前にして、小中学校の現場の先生たちは深刻に憂慮しました。そして、児童生徒の学力の低下や心性の堕落をもたらす強いられた政治政策に対し声をあげて反対するかわりに、基礎学力において、戦前の学力水準を維持できるような教材を探し求めておられました。当時は、教科書や教材がなく、先生の仕事は、リュックサックを背負って教材を買いあつめることでした。昭和20年代から30年代、そういう涙ぐましい努力をして子どもたちを教える心ある先生方が、日本中におられました。

こうした先生方の声に真摯に耳を傾け、このままでは日本を担っていく子どもたちにまともな教育をすることはできない、日本の将来は危いと決然として立ち上がったのが、戦前から活躍された文人の保田與重郎先生や、その門下生であった当社創業者の奥西保・高鳥賢司たちでした。

教科書ほどに政治的制約を受けないワークブック等の学習教材の出版という形で、教育現場への支援に果断に挑んだのです。子どもたちの「勉強」、つまりトレーニングによって、からだに原理への態度をおしえこむような教材の出版、それが私たちの人づくり・国づくりの志の形であり、いわば、教育の世界でのたたかいでした。そして、私たちの尊い先生方は、黙って、私たちのつくった教材を採用してくださいました。

当社はこのように、義務教育内容の質的向上、学力と意欲を強化する教材の探求という現場の先生方の切なる願いとともに生まれ、育ってきました。

さまざまなご支援

志は反響しました。私たちの創業の志に共鳴し、地域に根を張って学校を見守っていた教材販売店の方々が、惜しみなく、ごく小さな教材出版社に協力の手を差しのべてくださったのでした。また、各界最高峰の名立たる先生方——詩人の佐藤春夫先生(初代新学社総裁)、板画の棟方志功先生、民藝の河井寛次郎先生、天理教の中山正善真柱、一燈園の西田天香師など——が、さまざまな面から親身にご支援くださいました。

また、元京都大学総長で脳の運動神経研究の世界的泰斗であられた平澤興先生には、昭和48年、当社の第2代総裁にご就任いただきました。平澤先生は、研究に裏付けられた子どもの教育についての学問的解明と深い洞察から、家庭教育こそ最も大事であるとの信念を抱かれ、みずから最前線に立って、「家庭教育の確立」を旗印にした全国運動、そして家庭学習教材「月刊ポピー」の普及にご尽力されました。児童生徒の学力向上には、学校教育と家庭教育の両輪が必要です。当社が現在まで、学校教材発行と家庭教材発行の両方を主事業とするのは、平澤先生より受け継いだ志の継承にあります。

こうして、出立間もない小さな出版社に、皆様が情熱を込めてご協力くださったのは、私たちの創業精神に共感し、当社に期待されたからでした。皆様もまた、我が国の教育の現状と将来を深く憂いておられたにちがいありません。

当社の志

教育出版を通じて義務教育の質的向上と家庭教育の確立を目ざそうという当社の志は、時代が移り、社会がどれほど変化しても一貫して変わることはありません。
数多の先人先達に常に感謝し、そして今も当社に寄せられる大きな期待を裏切らぬよう、愚直に教育による国づくりの使命を担い、その責任をしっかりと果たしつづけていく所存です。

一所懸命に勉強している子どもたちの真剣な面持ち見れば、水明かりのように心が澄み、明日への信がおのずから湧いてきます。そして、花弁がひらく前ぶれのような、静かな期待を抱くのです。私たちは、いつの世にも変わらない、そんな子どもたちの表情を頼みとして、日々仕事に打ち込んでいます。

ひたむきな勉強によって、明日の子どもたちが美しく確かなまなざしで、大いなる夢や志を抱くことを、切に願っています。